相続対策に影響あり?【令和5年度税制改正大綱】のポイントをトコトンわかりやすく解説します!
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昨年(令和4年)12月に「令和5年度税制改正大綱」(施行日:令和5年4月1日)が発表されました。
本記事では、令和5年度税制改正大綱の中でも「相続/贈与」について主な改正内容をわかりやすく解説していきます。
相続対策を検討している方には、特に目が離せない税制改正の内容になっています。ぜひ最後まで御覧ください。
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目次
令和5年度税制改正大綱(相続)、要注目の2大改正とは?
今回の税制改正(相続)で注目すべきポイントは、ずばり以下2点の税制改正です。
1)「暦年贈与(生前贈与)の加算期間」
2)「相続時精算課税制度」
相続対策を検討する上で、この2つの税制改正はぜひおさえておく必要があります。というのも、今回の税制改正によって従来の節税対策(納めるべき納税額)が大きく変わる可能性が高いからです。
そもそも、政府が相続と贈与の一体化(相続/贈与の有利不利をなくす税制)を打ち出したのは、令和3年度の税制改正大綱からです。その流れを受け、2年前から暦年贈与制度の改正があるのではないかと話題になっていました。
そして、いよいよ令和5年度税制から暦年贈与の加算期間が改正されました。
次の項目より、令和5年度税制改正のポイントについてわかりやすく解説していきます。
税金がかからない贈与の枠=「暦年贈与」とは?
令和5年度税制改正を詳しく解説する前に、今回改正の対象となった「暦年贈与」について簡単におさらいしておきましょう。
例えばご両親やご家族から現金など贈与をうけると、ある一定の枠内であれば税金がかからないという話を聞いたことないでしょうか。
このように、毎年の贈与に対して税金がかからない贈与の枠を「暦年贈与(れきねんぞうよ)」といいます。
つまり、暦年贈与とは税制上の原則として「一人が一年間に110万円の枠内で贈与を受ける場合は非課税」の制度を指します。この制度を正しく活用すれば節税対策ができることもあり、ぜひ活用したい制度といえるでしょう。
暦年贈与制度について下図のように具体的に図解してみると、よりわかりやすくなります。
図解をみてもわかる通り
1)10年間、毎年100万ずつ贈与する
2)1年間、1回でまとめて1,000万円贈与する
暦年贈与の節税効果は同じ1,000万円の贈与を受ける場合でも、贈与する期間と金額により贈与税の影響が、大きく変わることがわかると思います。
1)の場合:暦年贈与を活用し、100万円を10年間贈与した場合の贈与税は0円
2)の場合:177万円の贈与税が発生する
◆まとめ:暦年贈与制度とは?
暦年贈与制度とは、一人が1年間(1月1日から12月31日までの1年間)にもらう財産が、毎年110万円まで贈与税がかからない非課税枠をさす。
令和5年税制改正ポイント1:暦年贈与の加算期間が変更
「暦年贈与制度」の考え方が確認できたところで、今回の税制改正の1つ「暦年贈与の加算期間変更」について詳しく見てみましょう。
「暦年贈与の加算期間変更」の概要は以下の通りです。
1)暦年贈与の加算期間は3年内加算から7年内加算へ変更
2)対象は2024年(令和6年度)1月1日以降の贈与から適用
まず、改正となるのは生前贈与した分が相続時に持ち戻される「期間」が変更されます。従来は相続前3年以内の贈与分が相続財産に加算されますが、改正後は3年から7年へ加算期間が延長されます。
また適用開始時期は、2024年(令和6年度)以降の贈与からが対象です。つまり、加算期間は令和9年から延ばしていき、令和13年に加算期間が7年となるわけです(※この期間中の贈与は節税効果がありません)。
図解でわかる「暦年贈与と加算期間」の関係
暦年贈与と相続時の加算期間の内容を、以下図解してみました。
図解からもわかる通り、今回の税制改正で暦年贈与による節税効果は7年目以降に持ち越されることになり、改正前より相続税の負担が大きくなる結果となりました。
計算事例:暦年贈与-改正前と改正後の納税額の違いは?
税制改正前と改正後の納税額は、具体的にどれほどの影響があるのか、計算事例で確認してみましょう。
◆事例
・父の資産5,000万円
・父が子(一人)に10年間にわたり、110万円/年を暦年贈与
◆改正前
相続時の加算額:110万円✕3年=330万円は相続財産へ加算される
110万円✕7年=770万円は相続財産に加算されない
改正前は10年間の贈与期間中、相続税の計算に加算される期間は「3年間のみ」です。
よって、課税対象となる相続財産は4,230万円(5,000万円-770万円/7年間の非課税枠)となります。
◆改正後
相続時の加算額:110万円✕7年-100万円=670万円が相続財産へ加算される(※期間中上限100万円は控除可)
110万円✕3年=330万円は相続財産に加算されない
改正後は10年間の贈与期間中、相続税の計算に加算される期間は「3年間⇒7年間」に延長」されます。
よって、課税対象となる相続財産は4,670万円(5,000万円-330万円/3年間の非課税枠)となります。
暦年贈与加算期間の変更、その影響はいかに?
以上、令和5年度税制改正のポイントの1つ目である「暦年贈与加算期間の変更」について解説しました。
計算事例からわかる通り、今回の税制改正で以下の点が大きく変更されます。
- 相続税の負担が増える
- 2024年以降の贈与による節税効果は7年経過しないと節税効果はない
- 相続対策として生前贈与を検討する場合、さらに早いタイミング(7年以上前のタイミング)での贈与を実行していく必要がある
今まで、節税対策として「暦年贈与」の活用を検討していた方(または、すでに活用している方)、今回の税制改正は特に注意が必要といえるでしょう。
◆補足:「7年内加算の対象者」は誰か?
注目されていた「暦年贈与の加算対象者」ですが、今回の改正では相続または遺贈により財産を取得した者のみとなりました。孫など、本来は相続人ではない人が受けた贈与分については、相続時に戻さなくていいことになっています。孫への生前贈与は従来通り節税効果が高いといえるでしょう。
相続時精算課税制度とは何か?
次に税制改正のポイントの2つ目である「相続時精算課税制度」について解説していきます。
そもそも「相続時精算課税制度」とはどんな制度なのでしょうか。
相続時精算課税制度とは「直系尊属(父、母、祖父、祖父母)から生前贈与を受ける時は2,500万円まで贈与税を非課税で、贈与した人が亡くなった時に遺産となる相続財産だけでなく、過去に生前贈与した財産も一緒に相続税を課税する制度」のことです。
文字にすると大変わかりにくい制度で、理解しづらいかもしれませんので、以下図解にしてみます。
以下、事例を見てみましょう。
例えば、1億円の財産を持っているAさん(父)がいたとします。
このAさん(父)は、相続時精算課税制度を使って息子に2,500万円を贈与しました。この時、2,500万円まで非課税となるため、贈与税は1円もかかりません。
贈与をした後、Aさん(父)の手元には、いくらの財産が残るでしょうか?
1億から2,500万円を引いた7,500万円ですね。
その後、Aさん(父)は亡くなりました。この時点で残っている相続財産は7,500万ですが、この時、課税対象も7,500万円となるのでしょうか?
実は贈与の受け取り時に「相続時精算課税制度」を選択すると、相続税を計算する際は、贈与を受けた時の(非課税枠の)2,500万円を加算して納税する必要があるのです。
つまり、Aさん(父)の場合は、相続財産7,500万円と、相続時精算課税制度で贈与した財産2,500万円を足し戻した1億円に対して相続税が課税されることになります。
この事例からわかるように、相続時精算課税制度とは「贈与の時は贈与税を非課税にするが、相続の時に非課税にした分を精算して課税する制度」なのです。
贈与時は「2,500万円」まで非課税ですので、一見節税効果がありそうに見えますが、結局、最終的に相続税として課税されるのが「相続時精算課税制度」というわけです。
その意味で相続時精算課税制度とは、節税対策に利用するものではなく「納税時期を先送りする」制度だといえるでしょう。
補足:「相続時精算課税制度」を選択すると有利になる場合は?
上記の説明の通り、相続時精算課税制度は「納税時期を先送りする」制度といえます。一見すると、あまり使い勝手がよい制度には感じないかもしれません。
ただし、相続時に相続税が発生しない場合(相続財産が相続税の基礎控除額以下の場合)、有利な面もあるので参考にしてください。
以下、事例でご説明します。
◆事例:財産が3,000万円の場合
相続時精算課税制度を選択すれば、1回のタイミングで2,500万円を贈与しても非課税です(暦年贈与の場合は110万円まで)。贈与した方が亡くなり相続する時に2,500万円を足し戻し、課税対象額が3,000万円となりますが、相続税の基礎控除額の枠内となり、この場合相続税を納税する必要はありません。
◆まとめ
相続時精算課税制度は
- 相続時に相続税の支払う必要がない
- 年間110万円以上の大きな額を一度に非課税で贈与をしたい
以上のケースにおいて、相続時精算課税制度を選択する価値があるといえます。
令和5年税制改正ポイント2:相続時精算課税制度が使いやすくなった!
前項で相続時精算課税制度の概要について簡単に説明しました。
この制度は一度選択すると自動継続され取り消しができず、贈与税の基礎控除110万円が使えなくなるため、使い勝手の悪い面があります。
しかし、今回の税制改正では「相続時精算課税制度」の仕組みが大きく変更されました。2024年度以降は、暦年贈与より相続時精算課税を利用したほうが、節税効果は高い可能性があります。今回の税制改正はそれほどインパクトが大きいといえるでしょう。
今回の改正点は以下の通りです。
- 相続時精算課税制度を使った場合でも、贈与時の110万円/年は控除可
- 贈与で控除した110万円は、相続税の加算計算の対象外
- 令和6年1月1日以降の贈与が対象
以上、改正後の相続時精算課税は110万円/年間を控除できるだけではなく、その控除した金額を足し戻す必要がないという点が大きなポイントです。
計算事例1:相続時精算課税制度-改正前と改正後の納税額の違いは?
今回の税制改正の影響を、改正前と改正後で比較して確認しましょう。
◆事例
父の資産5,000万円
父が子(一人)に10年間にわたり、250万円/年を相続時精算課税制度で贈与
◆改正前
相続時の加算額:250万円✕10年=2,500万円が相続税の課税対象として加算される
よって相続財産は5,000万円(2,500万円+2,500万円)となります(節税効果無し)。
◆改正後
相続時の加算額:(250万円-110万円)×10年=1,400万円が相続税の課税対象として加算される
よって相続財産は3,900万円(2,500万円+1,400万円)となります。
以上の計算結果の比較をみても、相続税精算課税制度を選択した場合の節税効果は大きいといえます。
計算事例2:暦年贈与と相続税精算課税、どちらが有利?
次に改正後の暦年贈与と相続税精算課税、どちらを選択したほうが有利になるか、具体的な計算事例から見てみましょう。
◆事例
父の資産5,000万円
父が子(一人)に10年間にわたり、110万円/年を贈与
◆暦年贈与
相続時の加算額:110万円✕持ち戻し期間7年=770万円が加算される
よって、相続財産は4,670万円(資産5,000万円-1,100万円【110万円✕10年】=3,900万円+770万円)となります。
◆相続税精算課税
相続時加算額:(110万円-110万円)✕10年=0円が加算されます。
相続財産は3,900万円(5,000万円-1,100万円※加算なし)となる。
また、暦年贈与と相続税精算課税、どちらが有利かを図解にしましたので参考にしてください。
以上、年間110万円の控除額を利用して節税対策を行う場合、税制改正後は相続税精算課税制度を利用したほうが有利といえるでしょう。
まとめ:早めの対策が大切!
今回は令和5年税制改正のポイントを贈与/相続にポイントをしぼり解説しました。
これまで、贈与/相続の問題は以下の選択を検討する必要がありました。
・財産は贈与せず、相続まで残すべきか
・早めに贈与を行うべきか
今回の税制改正の内容からわかる通り、政府は相続と贈与の一体化をすすめる方向で間違いないでしょう。(贈与/相続の選択の有利をなくす方向にある)
この点、政府は海外の税制を参考にしており、贈与税の加算時期も7年ではなく、今後さらに長くなる可能性も十分にあり得ます(※ちなみに米国は贈与期間の全期間を相続税に加算し直します)。
以上、今後の税制の流れを勘案すると、今回の改正で使い勝手がよくなった相続時精算課税制度を、早い段階から活用していく視点も重要になります。
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