【相続トラブル事例】ご存知ですか?相続における”事実婚”の不都合な真実

事実婚は相続にどんな影響がある?
事実婚とは、法律上結婚していなくても婚姻の意思を持って共同生活をしている男女がいる世帯をさします。正確な事実婚の世帯数は不明ですが、国勢調査によると、親族でない異性と同居している20歳以上の人口は2010年時点で約60万人に上るとも言われています。

1980年代以降、生き方の多様性を求める声が国内でも語られるようになりました。最近でも、性の多様性やLGBTQ、また夫婦別姓などがメディアでさかんに報道されるようになってきています。

とはいえ、新しい夫婦の形ともいえる「事実婚」の前には、法律上大きな制約があるのも事実です。その中でも最も顕著な例が「相続」であることをご存知でしょうか。

そこで本コラムでは、ある著名資産家の事例から、「事実婚と相続」をキーワードに解説していきます。相続において、「事実婚と法律婚」と比較して、どのような違いがあるのでしょうか。

本コラムを読むことで、相続対策への理解がより身近に感じられると思います。ぜひ最後までご覧ください。

事実婚だったある著名資産家の話(実話)

事実婚だったある著名資産家の話(実話)
先日、日本を代表する著名資産家N氏が、都内の一般道を横断中に乗用車ではねられ死去したショッキングなニュースが新聞・テレビで報じられました。葬儀に参加した「残された妻」Mさんは、N氏とは事実婚の関係だったのです。

N氏の突然の死という事件のショックからまもなく、N氏の前妻の子であるAさんと、内縁の妻であるMさんの間で早くも相続問題が発生しているといいます。

事実婚ではあるものの、最後をみとったMさんと、法律婚した前妻の子であるAさんとの間におこった相続問題。実は法律的に内縁の妻であるMさんは、今回の相続の面で極めて不利な立場を余儀なくされるのです。

今回のケースのように、事実婚は相続の点で一体どんなデメリットがあるのでしょうか。

事実婚が相続で不利な7つのこと

新しい夫婦の形である事実婚。既存の仕組みにとらわれない自由な夫婦の形として、芸能界でも薬師丸ひろ子さん、椎名林檎さん、坂上忍さんなど、「妻でも夫でもない人生のパートナー」という道を選んでいます。

しかし、相続における法律面で、多くのデメリットが存在することはあまり知られていません。

以下、相続において事実婚が不利である不都合な真実を整理し解説していきます。

事実婚のデメリット1:相続権が発生しない

本来配偶者は、民法上(890条)どのような場合であっても法定相続人になれると定められています。他の相続人のように相続順位がなく、他の相続人の有無に関わらず法定相続人になるため、相続において最も優位な立場にあるのです。

しかし、話が事実婚となると全く違います。事実婚では一方が死亡すると、その相手は法律上「赤の他人」。したがって、相続の法律上では「法定相続人」として認められず、相続権は発生しません。

事実婚として相続できる条件は、被相続人(故人)が遺言書を残す場合のみで、その遺言書の内容に沿って、相続財産を相続することが可能となります。

このように、実質的に配偶者の立場でありながら、婚姻届けを提出した正式な法律婚である配偶者とは、相続においては大きな差があるのです。

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事実婚のデメリット2:相続税の配偶者控除がない

前項の通り、事実婚である内縁の妻に相続権は発生しませんが、遺言書で財産相続が指定されていれば相続は可能です。

ただし、遺言書によって財産相続ができても、本来配偶者として与えられる「配偶者控除」が使えない点も、事実婚のデメリットの1つといえるでしょう。

配偶者控除とは、夫婦間で築き上げた財産に対して相続税の課税対象となる金額(税額)を減額する特例です。課税の対象外(非課税)となる金額枠は、配偶者であれば最低でも1億6千万円、あるいは法定相続分のいずれか多い金額までとなります。

最低でも1億6千万というのがわかりにくいと思いますので、以下具体例をあげて説明します。

◆事例1:相続財産が2億円の場合
相続財産が2億円の場合、配偶者の法定相続分(配偶者の法定相続割合は1/2)は1億円です。

この場合、配偶者の相続控除は最低1億6千万までが非課税(枠)となります。したがって、税務対策上、配偶者は法定相続分より多く(今回の例でいえば残り6千万円分)非課税で相続することが可能です。
事例1:相続財産が2億円の場合

◆事例2:相続財産が4億円の場合
相続財産が4億円の場合、配偶者の法定相続分(配偶者の法定相続割合は1/2)は2億円です。

この場合、相続控除額はいくらでしょうか。答えは1億6千万ではなく、法定相続分である2億円までが税額控除(非課税)の扱いとなるので注意しましょう。
事例2:相続財産が4億円の場合

このように、相続における配偶者控除は、以下の通りとなります。

  • 最低1億6千万円(下限)、または
  • 法定相続分のいずれか多い金額(上限)

以上、法的な婚姻関係(法律婚)である配偶者であれば、相続税の税額控除において大きなメリットが与えられます。一方で、事実婚である内縁の妻の場合、配偶者の税額控除を一切受けることができません。

事実婚のデメリット3:相続税の基礎控除がない

前項でご説明しました配偶者控除以外にも、事実婚の場合、相続税の基礎控除の額も限定的なものとなります。

法定相続である配偶者の場合は、基礎控除額は以下の通りです。
●基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人

一方、事実婚の場合、基礎控除額は3000万円までです。また仮に遺言書などによって遺産相続にしても、事実婚は「被相続人の配偶者および一等親等以内の血族」以外の者として扱われ、相続税率は標準税率1.2倍(2割増し)で加算されてしまいます。

以上、相続税において事実婚と法律婚の違いは大きく、明らかに事実婚のほうが、不利であることがわかると思います。

デメリット4:小規模宅地の特例がない

事実婚のデメリットは、相続税における控除有無だけではありません。相続財産に「土地」が含まれる場合、「小規模宅地」の特例も受けることができません。

小規模宅地の特例とは、相続した土地の相続税評価額(相続税を算出する際にベースとなる評価額)を、最大80%減額できる制度です(適用を受けるには要件があります)。

例えば土地の相続税評価額が4,000万円だった場合、この特例を使うことで800万円にまで引き下げることも可能となります。

一般的に土地は高額で、相続税も多額になりがち。しかも相続税は現金一括払いが原則であり、それが理由で土地を売却しないと現金が用意できない人もいるほどです。土地を相続した場合は、「小規模宅地」の特例制度はぜひとも利用したい制度でもあります。

しかし、この「小規模宅地」の特例は、事実婚である内縁の妻には適用されません。土地の場合は相続財産の額も大きく、この特例を受けるか否かで、相続できる財産に大きな違いが出てしまいます。

なにより一番のリスクは、土地を相続したものの相続税を支払う現金がなく、相続税を支払うために、泣く泣く土地を手放す可能性も出てきてしまうことです。

事実婚のデメリット5:障がい者控除もない

もし仮に相続を受ける配偶者に障害がある場合にも、事実婚と法律婚の間に税務上大きな差が出ます。

例えば85歳未満の配偶者に一定の障害があれば、遺産を相続して相続税を納める場合

「85歳に達するまでの年数×10万円(特別障害者は85歳に達するまでの年数×20万円)」

上記算式の金額を控除額として税額から差し引くことができます。(この仕組みを「障がい者控除」といいます)

障がい者控除の対象は法定相続人にしか適用されないため、事実婚の場合、障がい者控除を利用できません。

事実婚のデメリット6:生命保険でも控除無し

ここからは生命保険における相続税の取り扱いについて解説していきます。

まず前提として、被相続人が死亡し、保険金受取人が死亡保険金を受け取った場合には、
●被保険者(保険をかけている対象者、ここでは被相続人)
●保険料の負担者
●保険金受取人
以上、課税関係者がだれであるかにより、所得税・相続税・贈与税のいずれかが課税対象となります。
死亡保険金と課税関係の表

上図のように、保険料の負担者(契約者)と被保険者(保険の対象者)が同じ人の場合、死亡保険金は相続税の課税対象となることがわかると思います(上表の真ん中のケース)。

しかし、相続人が保険金を受け取る場合に限っては、一定の金額まで相続税は非課税となり、税金が必ずかかるわけではありません(※)。

ただし、この非課税の限度額も、死亡保険金の受取人が「法定相続人」に限定されるため、事実婚は対象外。ここでも事実婚と法律婚(配偶者)とでは、相続として受け取る生命保険(死亡保険金)の取り扱いに大きな壁があります。

このように、パートナーが生命保険をかけてくれていても、事実婚の場合、相続税の非課税枠はありません。

※非課税枠:相続人が受け取る死亡保険金のうち、500万人×法定相続人の数が非課税の限度額(上限)です

デメリット07:配偶者居住権なく、住む家がなくなる可能性も

事実婚の妻にとって、もっとも重要かつ喫緊の問題は、被相続人の死後、相続以降はいままで住んでいた家に住めなくなる可能性がある点ではないでしょうか。

今回の事例でいえば、事実婚のパートナーであるN氏名義の家は、相続財産として法定相続人(A氏)が相続することになります。

このとき、事実婚の妻であるM子さんは息子A氏に対する相続上の対抗要件がないため、A氏が退去を命じることになれば、M子さんは黙って従わなければなりません。

もし、配偶者であれば「配偶者居住権」を適用することで、M子さんも従来どおり自宅に住むことが可能です。配偶者居住権とは、被相続人(以下「亡くなった人」)が所有していた実家などの建物に、亡くなった人の配偶者が住み続けられる権利です。配偶者居住権の特徴は、建物が別の相続人(例:息子)であっても、配偶者は住居の確保ができる点にあります。

しかし、この配偶者居住権を行使できる対象は配偶者(法律婚)に限られ、事実婚の妻、今回の例でいえばM子さんは配偶者居住権の適用を受けられないのです。

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相続において事実婚は圧倒的に不利

相続における事実婚のデメリットはまとめると以下の通りです。

  1. 相続権が発生しない
  2. 相続税の配偶者控除がない
  3. 相続税の基礎控除がない
  4. 小規模宅地の特例がない
  5. 障がい者控除もない
  6. 生命保険でも控除無し
  7. 配偶者居住権なく住む家がなくなる可能性も

新しい夫婦のあり方、多様性が重視される中、事実婚という選択肢がクローズアップされています。しかし、事実婚を選択するにあたり、相続において事実婚が不利である現実を十分認識しておくことも大切ではないでしょうか。

以上、皆さんの相続対策を考える上で今回の事例紹介が参考になれば幸いです。

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