【円満な相続を目指そう】相続開始前に知っておくべきことは?

相続人が問題に気づいたのは相続発生後であった、というケースが非常に多くなってきています。「不動産は多いが現金が少なく、相続税が支払えない」「分けにくい財産ばかりだった」「相続した土地に底地があった」などは、よくある事例ですが、相続発生後にできる対策は限られてしまいます。

どれくらい財産があるかは、親子と言えどなかなか話題にしにくいものです。とはいえ、何の対策もしなかったがために、せっかく築いた財産の多くを税金として持って行かれてしまうのは、亡くなった方も不本意でしょう。
相続について、ご本人が健在のうちに決めておくことで、相続問題へと発展させず、円満な相続へ導くことができるでしょう。揉め事の種を残さないのは、お子さんへの最大のギフトです。
そして、お子さんが正しい相続知識を得て、親御さんの財産を守ることは、親孝行の一つではないでしょうか。

今回は、資産を守るためにどんな対策を打てばいいのかお伝えします。

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相続発生前にしておきたいこと

多くの人が一度は経験する相続。トラブルに発展してしまうと、解決には、かなりの根気がいります。認知症や深刻な病で「判断能力がない」とみなされる前に、以下のポイントを親族間で確認しておけば、いざという時も安心です。
大切なのは、

    • 親族間で相続に対して共通認識を持つ
    • 資産構成を考える
    • 税金面を考慮する

以上のことです。では、なぜ大切なのか、一つずつ見ていきましょう。

相続に対して共通認識を持つ

相続対策で最優先すべきは遺産分割を円満に行うことです。そのために相続人と被相続人、それにかかわる親族と共通認識を持っておきましょう。「親を看取った人の苦労にどう報いるか」「管理や処分が困難な不動産を誰が引き継ぐか」などを鑑みて、皆が納得できる配分になるよう共過認識を持ち、分けやすい資産構成にしておくことが重要です。それではどのように具体的に配分を決めれば良いのでしょうか。以下の4つのポイントを意識することが重要になります。

遺産の配分をきちんと考える

①配偶者の生活の確保

まず第一に考えなければならないのは、配偶者の今後の生活の確保です。具体的にいうと、住まいや生活資金、高齢者施設への入居金などの問題です。
それらを考えると、子や孫といった次世代の相続財産の取得は、配偶者が亡くなった後の二次相続になると思っておくほうがいいでしょう。
とはいえ、配偶者が全てを相続すればいいというというものでもありません。確かに配偶者の相続分が多いほうが、一次相続における相続税は少なくなりますが、やがて発生する二次相続の税額は高くなってしまうのです。したがって税の極小化は、一次・二次相続全体で考える必要があります。

②相続人の貢献度を考慮

高齢者を介護しこれを看取るには大変な労を要します。遗産分割を考えるには、こうした貢献度を十分に考慮する必要があります。
一方、家業の跡継ぎや長男であるといった場合も疎かにはできません。また、通常は「長男が親の面倒を見る」というケースが多いかと思いますが、そうでないと皆が納得する遺産配分が難しくなることがあります。相続が「争続」とも呼ばれるのは、この辺りが発生源のことが多いようです。

③資産構成の検討

今日、遺産の種類は金融資産が最も好まれます。土地神話が健在だった数十年前とは様変わりしているのです。しかし金融資産は、納税資金や配偶者の生活資金などでほとんどが消えてしまっているケースが大半です。
また、それぞれの立場によって相続したい遺産の種類は変わります。嫁の立場で相続した女性は、夫が代々引き継いだ底地やアパートなどの換金しにくい不動産を相続しても困惑してしまいます。逆にそれらの収益物件の運用に興味を持っている法廷相続人がいるかも知れません。
今ではほとんど値のつかない地方(被相続人の出身地等)の土地やリゾート地、年会費を払うだけのゴルフの会員権を所有していることもあります。
そういったものの処分は非常に手間がかかり、相続人が敬遠されるものです。扱いに困る所有資産をうまく継承できる形にしておけば、相続がスムーズにいきます。
これらの資産は、取得経緯や状況を十分に把握している本人が健在のうちに、資産の売却・換金しておきましょう。

④おおよその遺産分割の立案

以上を踏まえた上で、遺産分割の大枠を考えましょう。遺産分割で追求すべきは金額面での形式的公平ではありません。あくまで各相続人が納得する円満な分割です。そしてそれは実質的な公平にもつながっているのです。

節税対策と納税資金の確保

相続発生前に税金面で考慮しておきたいものとしては、「遺産分割が行えるような資産構成にしておくこと」と「節税を踏まえた納税資金の確保」の二つです。前項の対策をした上で、以下の項目を確認し、より具体的に把握しましょう。

①所有財産がどういう状態で、どれだけあるか把握する
②おおよその相続税額を試算する
③所有する金融資産と予想相続税額を比較し、税金を払う現金があるかどうか確認する
④所有する不動産がどれくらいの額で売れるか把握し、心情的に売ってもいい資産なのか検討する
⑤不動産を売った場合の税引き後手取額を算出する
⑥相続税評価額と不動産売却後の予想手取額を比較し、評価額が時価を上回る「逆転」が起きていないか確認する

書類作成

①所有財産がどういう状態で、どれだけあるか把握する

「現金はどの銀行にどれだけあるか」「土地・建物がどれくらいあるか」「持っている土地に底地等、換金性に難点のあるものがあるか」「自宅の敷地は借地ではないか」「有価証券はあるか」など、総資産の量と状態を把握します。

②おおよその相続税額を試算する

①で把握した総資産を元に現時点で予想される相続税額を計算します。

③所有する金融資産と予想相続税額を比較し、税金を払うだけの金融資産があるかどうか確認する

不動産が多いと相続税を払うだけの金融資産がないことがあります。その場合は、被相続人が健在のうちに不動産の売却を検討します。

④所有する不動産がどれくらいの額で売れるか把握し、心情的に売ってもいい資産なのか検討する

「被相続人が、先祖代々守ってきた土地なのでどうしても売りたくない」「相続人である、子は持ち家があるので自宅は売却しても構わない」など、所有する不動産全てに対し、どうしたいか伝えておくことで、その後の処理がスムーズになります。

⑤不動産を売った場合の税引き後手取額を算出する

売っても構わない不動産が実際にどれくらいで売れるのか、売却に関わる手数料や登記料を抜いた手取額を計算します。

⑥相続税評価額と不動産売却後の予想手取額を比較し、評価額が時価を上回る「逆転」が起きていないか確認する

相続税額決定に使われる相続税評価額が、実際に売れる額を上回っていることがあります。特に「底地」「借地」は売るのが難しいのにも関わらず、相続税評価額が高いので、相続発生前に解決しておくことが大切です。

制度利用が推進される「成年後見制度」

延びる平均寿命

医療技術の発達により、平均寿命が延びています。そこで問題となってくるのが、判断能力の有無です。認知症と診断され、病気療養やケアサービスなどの介護が必要な状態になると、自分の資産を守るだけの「判断能力がない」とみなされます。
亡くなるまでの数年〜数十年の間、その財産を本人に代わり誰かが管理しなければなりません。認知症だけでなく、脳疾患や精神疾患、加齢による老化が著しい場合も同様です。
平成29年の日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳です(厚生労働省調べ)。
これは若くして亡くなった方も含まれた数字の平均なので、現在65歳以上の方はもっと長生きする可能性が高いのです(下記リンク平均余命参照)。喜ばしいことですが、その反面「判断能力がない」期間が長くなり、それに起因する問題発生が懸念されています。

参考リンク
厚生労働省 平成29年簡易生命表の概況

認知症になったら「成年後見人」の選任が必要な場合も

定期預金の解約や不動産取引を行う場合には、本人確認を求められます。その結果、本人が認知症等で判断能力がないとみなされると、成年後見人の選任を要求されてしまいます。
成年後見人の選任は家庭裁判所に申し立てを行うことにより開始され、家庭裁判所が決定します。成年後見人はそのご本人が亡くなるまで、本人の財産すべてを管理することになります。つまり後見人以外は、預金の引き出し、高齢者施設の入居契約すらできなくなります。それがこれまで扶養されていたり、日常のお世話をしたりしていた家族であってもです。そして、基本的には一度指定された後見人の交代は認められません。

本来であれば、状況をよく知っている親族が後見人になるのが一番です。誰もがそう考えるでしょう。ところが日本では、親族後見人が本人の財産を使い込むトラブルが起きたことから、親族が後見人として認められないことが大半となってしまいました。
全くの他人である弁護士や司法書士など士業に就く者でないと後見人として認められない事例が増えたのです。
最高裁判所事務総局家庭局による平成30年の調査では、成年後見人として認められている人のうち、親族は23.2%しかいませんでした。

参考リンク
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(平成30年1月~12月)」

親族以外の後見人にかかる費用

家庭裁判所で後見人として認められやすいのは、弁護士や司法書士などのいわゆる士業に就く者です。
士業者を後見人とした場合、総資産額によって月2〜6万円という多額の報酬の支払いを要します。親族が後見人なら支払わなくていいお金です。
後見人はいわば本人の身代わり。依頼者の財産を守ることが仕事です。たとえ依頼者の親族に必要なお金であったとしても、簡単には渡したりはしません。職務に忠実なのは素晴らしいことですが、そのことが時に本人に不利益を及ぼすことがあります。

「後見人は身近な親族がふさわしい」最高裁

そのような状況の中、最高裁判所が2019年3月18日、成年後見人について「親族がなるのがふさわしい」との見解を示しました。これまで認められることが少なかった後見人の交代にも柔軟な姿勢を見せています。
そうなった背景には、士業者とはいえ他人が後見人となることで、余計な費用が発生したり、家族の生活費が引き出せなくなったり、一部に不正を働く者がいたりと、本人の利益にならない問題の増加があります。

後見人には親族がふさわしいとの見解が示されても、すぐにこれまでの問題が解決するわけではありません。親族が、本人の利益保護の観点から後見人としてふさわしくないと思っても、変更には家庭裁判所への申し立てが必要です。非常に手間と時間がかかります。そして必ずしも、その訴えが通るとは限らないのです。今後の動きが注目されます。

最高裁判所

判断能力があるうちに本人が指名する「任意後見制度」

一番良いのは、判断能力のあるうちに、本人が親族や信頼できる人物を後見人として指名しておくことです。備えあれば憂いなし、いくら健康で聡明な方でも、いつどうなるかはわかないものですから、早い段階で準備するのが得策です。
やることは一つだけ、「将来を託したいと思える信頼できる親族を、後見人に指定する」という公正証書の作成です。
その後、本人が認知症や病気で判断能力がない状態になったら、家庭裁判所に申し立てをします。すると、任意後見監督人が選任された上で、公正証書で契約した人が任意後見人になります。監督人がつくことで、任意後見契約が効力を持つのです。
任意後見監督人は、任意後見人が契約通りの仕事をしているかチェックする役割を担います。監督人への報酬は財産に応じて決定しますが、後見人を士業者に依頼する場合の半額ほどで済むことが多いようです。

相続財産の「前借り」ができる相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、内容をわかった上で使うのであれば、非常に良い制度です。
本人が、いずれ相続人となる人に贈与をしても2500万円まではその時点では贈与税がかかりません。その代わり相続時に、相続税評価額に入れられます。
最大のメリットは生前贈与にも関わらず、贈与税がかからないということ。相続発生時に相続税を支払うものの、贈与税よりも相続税の方が税率が低く、相続発生前に将来引き継ぐ資産を使えるようになります。
気をつけなければならないのは、制度利用後、暦年贈与ができなくなることです。暦年贈与は、年110万円までなら無税で財産を贈与できる制度です。110万円までとはいえ、10年経てば一千万円を超える額を無税で贈与できるので、相続税対策として使っている方も多いでしょう。

被相続人が健在で、相続までまだ何十年もありそうなら、暦年贈与で110万円ずつ贈与、一定の年齢を過ぎ、先の心配が出てきたら相続時課税清算制度を利用するのがいいかもしれません。
相続時課税清算制度を一度利用すると、以降の暦年贈与はできなくなりますが、暦年贈与を続けた末、相続時課税清算制度を利用することは可能です。

要注意!相続税額は贈与の時点での価値によります

配慮すべきなのは、贈与を受けた時点の価値で相続発生時の相続税額が決まるということです。
例えば、親の土地に建てた賃貸アパートの建物部分だけ2500万円相当を清算課税制度を利用して贈与された場合、その時点での価値が相続税に反映されます。
贈与された時点で2500万円の価値があったが、相続発生時には1000万円の価値しかなかったとしても、2500万円の資産として計算されてしまうので、余分な税金を払うことになります。
しかしながら、建物を贈与されると、それ以降の賃料収入は贈与された人のものになるので、有利な場合もあります。相続発生までの想定賃料収入と、相続発生時に払う相続税のバランスを考えなければなりません。
その反面、再開発で地価の上昇が見込まれるのであれば、地価が低いうちに相続税清算課税制度で贈与すると、その後、地価が2倍になったとしても、相続発生時は低い地価での相続税を支払えばいいことになります。
うまく利用すれば、値段の上がる見込みのある不動産を低い相続税で贈与できますが、リスクがあることをご承知おきください。

相続税課税対象外ならぜひ利用を

相続発生時に相続税がかからない見込みの方は、ぜひ利用したい制度です。通常なら生前贈与とみなされ、多額の贈与税がかかるところですが、清算課税制度を利用すれば、贈与税も無税、相続発生時に相続税もかかりません。
相続税の試算をし、「3000万+(相続人数×600万)」以内なら相続税はかからないので、該当する方には大変有利に働きます。

相続時精算課税制度を利用するには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、税務署に「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して提出します。
また清算課税制度で土地を贈与すると、小規模住宅特例が使えなくなります。その点もよく考えてから利用しましょう。

参考記事
相続税の軽減措置「小規模宅地等の特例」とは

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