【ニュース解説】最高裁「路線価の否定判決」に波紋!いままでの節税対策に影響ある?
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2022年4月に路線価及び固定資産税評価額に基づく相続財産の評価は不当であるという最高判決が下され、大きな波紋を呼んでいます。
一般的に不動産を相続する場合は、路線価が相続財産の算定評価基準とされてきました。路線価は実勢価格の8割に設定されているため、節税対策を目的として不動産を購入する方も多くいます。
しかし今後は、所有する不動産価値が相続税の算定基準となる路線価及び固定資産税評価額と実勢価格に大きな差が生じる場合、注意が必要となるでしょう。
本コラムでは、今回の「路線価の否定判決」が相続税の節税対策にどのように影響を与えるか解説していきます。
不動産相続を検討している方にとって、特に重要なニュース解説となっています。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
裁判のあらまし
今回、最高裁が路線価及び固定資産税評価額に基づく相続財産の評価を不当と判決したのは、2012年6月に94歳で亡くなった男性が、東京都内と神奈川県川崎市内に購入していた2棟のマンションが対象です。
被相続人である94歳で亡くなった男性は、2棟のマンションを購入した時点ですでに90代を超えていました。この男性が亡くなった後、男性の妻や子、孫などの相続人らは、路線価を基に2棟のマンションの相続税評価額を約3億3千万円で算出しました。
また、当時借入があったため、借入額を踏まえて各種控除をすべて計算に入れ、相続税額を0円として国税側に申告したのでした。しかし実際は、被相続人が物件を購入した当時、マンションの価格は2棟で約13億8,700万円と相続時の評価額とは大きく異なる金額だったのです。
国税局側の不動産鑑定でも、2棟のマンションに対する評価額は約12億7,300万円と鑑定され、相続税評価額を大きく上回る結果となりました。
相続人らが路線価及び固定資産税評価額に基づいて算出した評価額と国税当局による評価額を比較すると、約4倍という大きな開きがあります。つまり、相続人らは約4分の1の金額を相続した不動産の評価額とし申告を行っていたのです。
実勢価格と路線価及び固定資産税評価額にあまりにも大きな差が生じていることから、国税局側は不動産相続の評価は不当であると判断。「相続税の申告漏れにあたる」とし、相続人に対して約3億円の追徴課税処分を行いました。
一方、原告側である相続人らは、国税局側の申し立てを不服として、国税局側に追徴課税の取り消しを求める訴えを起こしました。
以上が、今回の裁判のあらましになります。
裁判結果は
- 2019年8月に東京地裁判決
- 2020年6月に東京高裁判決
ともに相続人側の敗訴。そしてついに、2022年4月の最高裁で相続人側の敗訴が決定しました。
路線価及び固定資産税評価額に基づく相続財産評価額の算出方法が否定され、国税による追徴課税が認められたという今回の最高裁の決定は、これまでにない大きな波紋を呼んでいます。
【ワンポイント解説】路線価とは?~相続税の計算方法
相続税を算出する際に、路線価がどのように関係するのかについて簡単に解説しましょう。路線価とは国税庁が公表する土地の価格を表し、主に相続税や贈与税を算出する際に使用します。
路線価は毎年1月1日時点における土地価格について、国税庁より同年7月1日に公表されます。(国税庁のホームページで簡単に確認することが可能です)
公表されている国税庁のホームページを見ると、土地に「200C」や「300D」というように数字とアルファベットの表記があります。「200」や「300」といった数字部分が、その土地の路線価です。(千円単位表記)
アルファベット部分は、土地の権利のうち借地がどのぐらいの割合を占めているのかを示す「借地権割合」を示しています。
土地の相続税額を算出する計算式は次の通りです。
●「土地の相続税額=(相続税評価額−基礎控除)×税率−控除額」
上記計算式で、土地の相続税額を算出する際に必要な相続税評価額を求めるために路線価を用います。
相続税評価額を算出する計算式は次の通りです。
●「相続税評価額=路線価×土地面積」
仮に路線価が200の土地面積が300㎡とすると、その土地の相続税評価額は6,000万円となります。
※基礎控除の算出方法は「3,000万円+(600万円×相続人の人数)」です。相続税評価額に他の相続財産の金額もプラスし、上記の計算式に充てて土地の相続税額を算出します。
(税率や控除額は国税庁「相続税の速算表」で確認できます)
裁判の争点~なぜ裁判所は「路線価」を否定したのか?
不動産の相続税を算出する際には国税庁が公表する「路線価」を採用します。しかし今回の最高裁の判決では、これまでの基準となる「路線価」の採用を否定する形となりました。
最高裁で路線価及び固定資産税評価額に基づく算出方法が否定された主な理由として以下の3点が挙げられます。
- 「路線価及び固定資産税評価額を用いて算出した土地の相続評価額と実勢価格に4倍もの開きがあること」
- 「物件購入から相続に至る過程が相続税対策として露骨であったこと」
- 「本来課税対象にあった財産まで課税を免れようとしたこと」
路線価及び固定資産税評価額を用いて不動産の評価額を算出し、実勢価格よりも低いことを利用して節税対策とする方法はこれまで多く用いられてきました。
しかし今回の事案の場合は、実勢価格と大きな差が生じている上に、あからさまな節税対策と判断せざるを得ない経緯が見受けられます。裁判所は、相続人らが極端な形で相続税の節税対策を講じたとして路線価及び固定資産税評価額を否定するという判決に至ったのです。
相続人らの行為があからさまな節税対策であると判断された理由は次の通りです。
- 「被相続人が90代で不動産を購入し、その後約3年ほどで亡くなっていること」
- 「被相続人の孫を養子縁組した直後に、不動産購入をしていること」
- 「不動産購入にあたり、融資を担当した銀行の稟議書に相続税対策目的としてマンション購入をした旨が記述されていること」
- 「相続開始直後(約1年余り)に、相続人が不動産を売却していること」
養子縁組をすると法定相続人が増え、基礎控除を増やすことができます(その結果、相続税対策となります)。被相続人は銀行に相続について相談をした後に、自身の孫を養子縁組しており、相続税対策として行った行為であることは明白であると言えるでしょう。
さらに相続人は、相続したマンションを被相続人が亡くなった約9ヶ月後に約5億1,000万円で売却しています。
このような経緯を総合的に勘案し、被相続人の不動産購入が相続税対策を主としたものであると判断されたのです。
今回の事案では、争点となっている物件以外にも合計約7億円の財産があり、借入金残額は約10億円という状況にありました。提出済みである相続税申告書には、2棟のマンションを約3億3千万円で評価しています。
相続人らはこのマンションの評価額を基に、債務控除や葬式費用控除、基礎控除等で課税遺産総額を0円で申告したのでした。各種控除の内訳は、債務控除が約9億9,500万円、葬式費用控除が約200万円。基礎控除は養子縁組の孫を含めて5人となっているため約1億円です。マンション2棟とその他の財産相続を合わせて計算すると課税遺産総額はゼロ。
ちなみに争点となっている2棟のマンションを購入せず借入もなかった場合、相続税の課税遺産総額は各種控除を引いた金額にあたる約6億円となるはずでした。
今回の節税対策によって、本来であれば課税対象となる相続遺産までもが課税義務から除外することが可能となったのです。さらに国税局に申告した相続税額は0円である一方、不動産売却によって約5億円を受け取っています。こうした一連の行為は、税金逃れと判断されても致し方ないと言えるでしょう。
以上の経緯から、国税局側は「露骨な相続税対策である」と判断し、相続人らに対して追徴課税処分を課しました。裁判では租税負担の公平に反するとして、相続人らの主張は全面的に退けられたのです。
国税が採用した判断基準とは?~「国税の伝家の宝刀」
今回の事案で、国税局側は相続税を追徴課税するにあたり、国税庁長官の指示で財産評価の見直しを行えるという「財産評価基本通達の6項」を持ち出しました。この「財産評価基本通達の6項」は「国税の伝家の宝刀」とも呼ばれています。
財産評価基本通達とは、課税価格を算出する基礎となる相続財産の評価基準が定められたものです。6項に記述されている内容を見てみると「この通達によって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とあります。
引用:国税庁総則第1章-(この通達の定めにより難い場合の評価)
この条文で「著しく不適当」という箇所が曖昧な表現ではありますが、主に租税負担の公平性を著しく害することが明らかであるといった「特別な事情」がある場合に適用となります。
「伝家の宝刀」とも呼ばれるものであるため、むやみやたらに適用されるものではありません。しかし、いつどのような場合に適用されるのかが明確になっておらず、今回の最高裁の判決をもってしても「財産評価基本通達の6項」の基準は明確にされたわけではありません。
今回の裁判では、評価額が実勢価格と大きな差が生じていたことや、相続直後に不動産を売却したことなど総合的に判断し、通達の規定により相続財産の算出基準を否定しました。
ルール通りに手続きを進めていたとしても、後から基本通達の6項によって否認されてしまうと、経済取引の活発さを抑えてしまい不動産価格が下がってしまう恐れもあります。実際に、判決に困惑する税理士も少なくないようです。
【ワンポイント解説】「伝家の宝刀」いつ抜かれる?
今回のニュースで一番の関心事は、やはり国税局の「伝家の宝刀」がいつ、どのように適用されるかではないでしょうか。
今回の事案で、国税局があえて「伝家の宝刀」を抜いた要因は以下2点と考えます。
- 被相続人が(亡くなる3年前)90代で不動産を購入している点
- 不動産の「使用目的」が不明確な点(あるいは、明らかに意図的な節税行為にみえる点)
つまり、国税局の「伝家の宝刀」が抜かれるかどうかは、相続財産の「使用目的」が重要な争点になるのではないでしょうか。
要注意!節税対策に影響も・・・
今回の最高裁の判決は、今後不動産を所有する方の節税対策へ大きな影響を与える可能性が大いにあるでしょう。
元々は不動産等の相続財産は時価で評価することと法律で決められてはいます。しかし、納税者が時価を把握するのは容易でないとして、国税局は路線価を相続税や贈与税の算出基準としているのです。
路線価に基づいた相続財産の算出方法が節税対策となるのは、路線価が実勢価格の8割で設定されているからです。不動産を購入し相続時に路線価を用いて評価額を算出することで、国税局に提出する相続税額を抑えられるというメリットは地主側にあります。
つまり、現金を相続するよりも不動産を購入して相続した方が、税金も安くなる傾向があります。そのため資産の相続税対策として不動産相続を検討している方も多いでしょう。
しかし、今回「路線価の否定判決」が最高裁によって出されたことで、国税による恣意的な課税が増加するのではという懸念が出てきました。
仮に今回のようにマンションを相続税対策の目的で購入し、相続直後にマンションを売却すると、国税局から追徴課税を受けることになってしまう可能性もあります。養子縁組をして法定相続人を増やした場合はなおさらです。
その他、入院している家族名義でマンションを購入し亡くなった後に相続する場合、購入時は意思決定がなかったとみなされると、今回の事案と同様に路線価に基づく相続財産の評価が否認されてしまうケースも考えられます。
今回の最高裁の判決結果により、財産評価基本通達の6項によって路線価に基づく相続財産の評価が否認されるリスクは、高まったと言えるでしょう。
今後の動向(予想)~今回の学び
今回の最高裁の判決に対して、多くの専門家は「金額の大きな相続はこれまで以上に方法やリスクを慎重にすべきである」と述べています。
不動産を所有する方にとって、他人事とは思えない事案であると言えるでしょう。いざ不動産を相続するとなった際に「行き過ぎた節税対策である」と判断されないよう事前に対策を講じる必要があります。
今回の事案の被相続人は不動産購入時に90代と高齢で、実際に相続するまでに約3年半ほど余裕はありました。追徴課税の対象とならないためにも、できるだけ早い時期に節税対策を行い、相続後すぐに不動産を売却しないように注意しましょう。
他にも不動産を購入する際には賃貸目的など、節税以外の目的であることを明確にすることも重要です。
以上、かかるリスクを想定し、念入りに準備をしておく必要があることを認識しておきましょう。
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