アパート被災時の大家さんの責任は?【弁護士監修コラム】
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突然の地震や毎年やって来る台風などは、安定したアパート経営をゆるがす要因の1つです。異常気象も増えている昨今、どのような物件でも自然の脅威と無縁ではいられません。
アパートは大家さんの所有物ですが、そこで生活を営むのは入居者であり、被災したら双方が影響を受けることになります。適切に対応するために、大家さんは、入居者に対して建物のオーナーが負う法的な責任について理解しておく必要があります。
そこで今回は、家賃はどうなるのか、修繕費はどうするのかなど、アパートの被災にそなえて知っておくべき法律の知識を中心にご紹介します。
目次
入居者がアパートでの生活を送れなくなってしまったとき
アパートが住めないほどの被害を受けてしまったとき、大家さんはどうすればいいのでしょうか。
被災の原因と程度に応じて、家賃の減額が必要な場合がある
部屋が住めない状態であれば、基本的に家賃は請求できません。賃貸借契約は、賃貸人(大家さん)が賃借人(入居者)に住める状態の部屋を提供し、対価として賃借人が賃料(家賃)を支払う、というものだからです。
「アパートが台風で倒壊した」「豪雨で床上浸水した」などの場合、大家さんは家賃を請求できなくなる可能性があります(※)。「壁の一部が崩れて穴が開いてしまい、1部屋だけ使えない」といった部分的な被災なら、利用できない部分について入居者から家賃の減額を請求されることもありえます。
(※)ただし、入居者の責めに帰すべき理由がある場合を除きます。
また、居室内は被害を受けなかったとしても、配管の破損などで電気・ガス・水道が使用できなくなることもあるでしょう。ライフラインが使えない家を借りる人はいないでしょうから、この場合も、入居者からの家賃減額請求に応じなければならない可能性があります。
大家さんには「住める状態の物件を貸す」以上の責任はない
アパートで生活できない間や、修繕のために一時的に退去してもらう期間、「代わりに宿泊するホテル代を支払って欲しい」などと入居者に求められることもあるようです。基本的に、大家さんがこれに応じる必要はありません。
入居者がアパートに住めなくなったことの原因は自然災害であり、大家さんに落ち度はないからです。さらに、大家さんは住めない期間の家賃を入居者に請求できないのですから、それ以上の負担を負う必要はありません。
入居者の家財道具が被害を受けてしまったら大家さんに責任はある?
アパートが被災したことで入居者の家財道具が壊れた場合、通常、大家さんが何らかの補償をする必要はありません。ただし、例外は大家さんの修繕義務違反が原因によると思われる被災です。
大家さんにはアパートを守るための修繕義務がある
貸主の義務として大家さんは、アパートの使用・収益に必要な修繕を行い、賃借人に提供しなければなりません。これを修繕義務といいます。修繕義務を怠った結果アパートが被災したのであれば、大家さんの責任が問われる可能性があります。
例を挙げてみましょう。台風で屋根の一部がはがれていることを知っていたのに、大家さんがきちんと調査や修繕をしていなかったとします。次に大雨が降った結果、雨漏りして入居者の家財道具が水に濡れるなどのダメージを受けてしまったら、大家さんの責任と言われてもおかしくありません。
もし大家さんが入居者から家財道具の弁償などを求められたなら、応じなければならない可能性があるでしょう。
入居者が怪我・死亡してしまったら
災害の結果、不幸にして、入居者がアパート内で怪我をしたり、死亡してしまったりすることも起こり得ます。アパートが通常備えておくべき安全性を欠いていたことが原因なら、大家さん側の過失として、損害賠償を請求される可能性があります。
耐震基準を満たしていないアパートは大家さんの責任が問われる
注意が必要なのは、現在の建築基準法の耐震基準を満たしていない古いアパートです。契約時の重要事項説明で入居者にその旨を説明し、本人が納得すれば契約上は問題ないとされています。しかし、物件を貸す場合は、通常備えておくべき安全性を満たしたものを提供しなければならない、という前提があります。
そのため、たとえ本人が了承していたとはいえ、残された家族から「安全性を欠いた部屋を貸していた。そのせいでアパートが倒壊して死亡した」と追及された場合、大家さんが損害賠償責任を負ってしまうリスクはあります。
なお、建築基準法は1981年と2000年に大きく改正されています。1981年より前を「旧耐震」、以降を「新耐震」として分類することが多いのですが、「新耐震」と呼ばれていても2000年の基準を満たしていなければ、現行の耐震性度には達していません。専門家による耐震診断を受け、必要に応じて耐震補強を行っておくのがベストです。
被災したアパートの修繕は大家さんの義務
アパートが被災したら、大家さんが費用を負担して、責任を持って修理しなければなりません。上でもご説明した通り「修繕義務」があるからです。修理をしていなかった期間は「被災の原因と程度に応じて、家賃の減額が必要な場合がある」で述べたように、通常の家賃が請求できない可能性もありますので、速やかに対応すべきです。
入居者の一時退去や立ち会いなどが必要な場面もあると思うので、協力してもらいながら進めましょう。
「被災時の修繕は入居者負担」という特約は現実的でない
契約書に「入居中の修繕は借主が行う」という特約を設けることもありますが、これは大半が「通常の使用の範囲内で必要な修繕」のことです。「被災時に、建物の躯体部分に関わる修繕も賃借人が行う」とする特約を設けることも不可能ではありませんが、仮に、そのような特約がある場合には、家賃を格安にしなければ借り手がつかないでしょう。このような事情もあり、実際的には、大家さんが修繕をするケースがほとんどなのです。
入居者に責任がある場合はどうなる?
中には「台風が来ていて強風が予想されるのに、倒れやすいものをベランダに出しっぱなしにしていて、窓ガラスが割れてしまった」というように、入居者側の責任が問えそうなケースもあるでしょう。
入居者の不注意で起こったことであれば、入居者に修繕費用を請求することは可能です。しかし実際には、アパートの被害が本当に入居者の行動によるものであったのか、立証が難しいケースも多々あります。自然災害に対しては、基本的に大家さんが修繕費用を負担することを覚悟して、備えを行なっておくべきなのです。
修繕費用がかかったことを理由に家賃値上げはできる?
アパートの修繕に費用がかかった場合、収益性が低くなってしまうので、家賃の値上げを考えたくなる大家さんもいるかもしれません。しかし、このような値上げは法律上は認められないと思われます。自然災害でかかった修繕費用はあくまでも貸主側が負担すべきものだからです。
被害が大きければ大家さんが修繕義務を負わなくてもいいことも
アパートの賃貸契約は建物を目的物として結ばれます。そのため、アパートが原型を留めないほどに損壊・消滅してしまった場合は賃貸借契約そのものが消滅し、大家さんは修繕する義務を免れます。
では、建物が消滅するところまでいかなくとも、修繕するより建て替えた方が安くつくようなケースではどうでしょうか。「屋根が丸ごと飛んだ」「壁が一面大きく崩れた」というような場合、修繕は可能ですが、丸ごと取り壊して新築することも珍しくありません。
実は、大家さんが負担する修繕費用が経済的にみて不当だといえるレベルなら、修繕義務がない、と認められることもあります。例えば、過去には「修繕に不相当に多額の費用、すなわち家賃の額に照らし採算のとれないような費用の支出を要する場合には、賃貸人は修繕義務を負わない」とされた判例もあります。
また、建物の被害が大きければ、大家さん側から入居者に契約の解除を申し入れられることもあります。アパートの賃貸借契約には「借地借家法」が適用され、入居者が住み続ける権利が強く保護されています。そのため、大家さんから契約を解除するには法律上、正当と思われる理由(正当事由)が必要ですが、アパートの大破は正当事由として主張でき、賃貸借契約を解消できる可能性があるのです。
「万が一の災害」に備えるため保険で押さえておくべきポイント
ここまで見て来たように、アパートが被災してしまったら大家さんは家賃収入が減ってしまううえ、多額の修繕費を負いかねません。備えとして、建物に対する保険に加入している大家さんは多いと思いますが、契約内容が適切であるかはぜひ確認しておくべきです。
保障対象となる災害の種類は十分か
どこまでのリスクに備えるかはさまざまな考え方がありますが、最低限、アパートの立地に照らし合わせて必要なプランを選択しましょう。例えば、低い土地に建つアパートなら水害も保障対象に含めておく必要がありますし、沿岸部なら地震にともなう津波にも警戒する必要があります。ハザードマップは適宜更新されているので、最新のものを確認することをおすすめします。
さらにリスクを下げられる「特約」もある
火災保険にはセットで加入できる特約があり、被災した際の損失を多角的にカバーできます。「家賃収入特約」をつければ、災害によって長期的な空室が生じた場合、その間に得られるはずだった家賃収入を保障できます。「施設賠償特約」をつければ、強風で剥がれたアパートの屋根が隣の家を傷つけた、などの不測の事態にも備えられます。
リスクが高いと思われる物件は、これらの特約も検討しましょう。
「保険金が足りない」可能性も!「時価」方式の契約にご注意を
一方、保険金の設定方法によっては、せっかく保険料を支払っていても、修繕に十分な金額を保険でまかなえないおそれがあります。火災保険の保険金の設定方法には「時価」と「再調達価額(新価)」の2種類があり、注意が必要なのが「時価」方式の契約をしているアパートです。
「時価」と「再調達価額」の考え方
「再調達価格」は「被災した物件と同等のアパートをいま新しく買うといくらになるか」という考え方で保険金額を設定します。そのため、被災した際には、建て替えや修繕に必要な金額がほぼ確実に受け取れます。
「時価」では建設当初の価格から、被災時までの時間の経過によって劣化した価値を差し引いたものが保険金額の上限になります。そのため、必ずしも修繕に必要な金額が受け取れるとは限りません。特に、築年数が経過したアパートほど支給される金額が少なくなってしまうのです。
築年数が古いアパートは火災保険が「時価」方式の契約になっている可能性が高い
1998年に損害保険料率の自由化が行われるまでは「時価」での契約が主流だったため、今から20年以上前に契約した火災保険では、時価方式になっていることがよくあります。
時価方式になっている古い保険は、再調達価額のものに加入し直したいところですが、話はそう簡単ではありません。古い建物は保険料が割高になるうえ、築30年を超えると限られた保険会社でしか加入できないなど、選択肢も減ってしまいます。保障が手厚くなったぶんコストもかさみアパートの収益性が低下してしまう、という大家さんにとっては頭の痛い話になるのです。
大家さんは被災する「前」から備えよう
被災した時のために保険に加入することに加えて、まずは、普段から建物の状態を確認し、修繕が必要な箇所があれば対応するなど、「被災する前」からの対策が大切です。この点で考えると、悩ましい問題を抱えているのが老朽化したアパートです。
古いアパートは「建て替え」も視野に入れた選択を
築年数の古いアパートは新築に比べると被害に遭うリスクが高まってしまうので、しっかりと保険をかけて備えておきたいところです。しかし、「時価」の契約になっている、保険を見直すと新たな保険料が高額になる、など、古いアパートは保険で対策するのも簡単ではありません。
このような古いアパートは、被災してトラブルになる前に、思い切って建て替えるのも選択肢の1つです。火災保険の保険料は掛け捨てタイプが基本ですから、高額な保険料を支払い続けるのは非常にもったいないものです。それよりは、最初から建て替えてしまった方がずっと経済的だというケースも多いのです。
建て替えとなると、入居者に立ち退いてもらう必要があるため二の足を踏んでしまう大家さんも多いかと思います。しかし、ひとたび災害が起こり大きく被災してしまってからでは、大家さんも入居者も、計画的な建て替えの比ではない大きな負担をしいられます。災害が増えている近年だからこそ、あらゆるリスクを見据えた早めの対応がますます重要になってきていると言えるでしょう。
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いかがでしょうか。
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