【2020施行・民法改正】瑕疵担保責任はどう変わった?契約不適合責任とは/弁護士監修
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売買契約や賃貸契約を交わした後に問題が発覚した場合、その責任はどこにあるのでしょうか。ケースによりますが、契約前に説明がなければ売主・貸主側が責任を問われることが多いでしょう。
2017年に改正された民法が2020年4月1日に施行されました。それに伴い、これまでの「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」と表現されるようになりました。では、この改正により何が変わったのでしょうか?今回は契約不適合責任についてご説明します。
目次
改正前民法の瑕疵担保責任とは?
改正前の民法に規定されていた瑕疵担保責任。「瑕疵(かし)」という言葉は一般的にあまりなじみがないかもしれません。瑕疵とは「本来あるべき性質や状態ではない」ということです。一般の人からするとわかりにくかったためか、今回の民法の改正により「瑕疵」という言葉が使われなくなりました。
瑕疵とは?
瑕疵についてもう少し詳しく説明すると「売り買いした目的物が通常有するべき品質や性能を欠いている」ということです。改正前の民法570条には、この瑕疵が隠れていたものであった場合に、売り主は「瑕疵担保責任を負う」と規定されていました。
<第570条>
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。<第566条>
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
改正後の法律が適用されるのは、法施行後から
改正後の法律が適用されるのは原則として法施行後に契約が結ばれたものです。
今回の民法改正は2020年4月に施行されたばかりなので、現時点で判例はまだありません。数年後には改正後の法律が適用される判例が出てくるはずです。(※この記事は、2020年10月に執筆しています。)どの法律でも改正前後の数年は、契約時期によって改正前と改正後どちらの法律も把握しなければならないため、注意が必要です。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いは?
これまでは隠れた瑕疵があった場合に瑕疵担保責任が問われてきました。「契約不適合責任」と言葉は変わりましたが、欠陥があるものについて責任が問われることは同じです。
改正前の民法に規定されていた瑕疵担保責任は「隠れた」欠陥に対して責任を負うと明記されており、「契約前にはわからなかった欠陥が契約後に出てきた」ものが対象でしたが、その「契約前にはわからなかった」を買主側が立証するのが困難でした。
そこで、契約前にその欠陥が存在していたことを立証する要件をなくすため、改正後の民法に規定された契約不適合責任では「隠れているか」「隠れていないか」については言及されなくなったのです。
契約不適合はどのような状態のことを言うの?
契約不適合とは、「該当の契約で約束された性質・性能を欠いている」状態です。
改正後の法律の条文
<第562条>
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
契約不適合については上記の通り「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と記されています。これが、これまで「瑕疵」と表現されていた部分です。
契約不適合にあたる可能性があるのはどんなとき?
さて、それでは不動産売買・賃貸の取引においては、どのような場合に売主・貸主側の責任が問われる可能性があるか、4つに分けてご紹介します。
以下に当てはまるものでも、売主と買主、賃貸人と賃借人の間でそれについて合意したうえでの契約だった場合、契約不適合責任は問われない可能性がありますので、ご注意ください。
1.物理的な契約不適合
以下の例のように、実際に目で見てわかる欠陥です。屋根裏や地下の欠陥は、実際に住んでみないとわからないこともあり、数年後に発覚することがあります。
- シロアリがいて、建物の基礎がボロボロであった
- 住んでみたら雨漏りする建物であった
- 購入後に調査したところ、建物の耐震基準を満たしていないことがわかった
- 昔、化学工場があった場所で、土壌が汚染されていた
- 現存する建物より前に建てられた建築物の基礎が残っていた
- 庭を掘ったら、大量のごみが埋められていた
2.法律的な契約不適合
法律的な契約不適合責任は以下のようなものが当てはまります。賃貸物件であれば大きな問題になることは少ないのですが、売買の場合、後に大きなトラブルとなる可能性があります。
- 市街化調整区域に建てられた住宅であった
- 都市計画道路の予定地に建設された建物であった
- 消防法に違反している建物であった
- 建ぺい率を満たしていないことがわかった
- 購入した建物が違法建築されたものであった
3.環境的な契約不適合
環境的な事項も、トラブルが起こることが多いポイントです。
- 近くにある下水の匂いが漂い、常に悪臭がする
- 隣の空家が長年、放置されており、害虫・害獣による被害がある
- 大雨で年に何度も浸水してしまう
- 大きな建物に囲まれており、一日中、部屋に日光が入らない
4.心理的な契約不適合
心理的な要因は、どのように判断されるかは個別のケースによりますが、以下のような場合は担保責任が問われることが多いようです。
- 近くに反社会的勢力の事務所があり、落ち着いて生活できない
- 購入または賃貸で入居した部屋で、直近に自殺者が出ていた
「契約不適合責任」が問われるかどうかはそれぞれのケースで異なる
契約不適合にあたるかどうかは、受忍限度に照らし合わせて考えられます。受忍限度は「一般人において社会生活上受任すべき限度を超えているかどうか」で判断されます。
例えば、近くに反社会勢力の事務所があったとしても、人の出入りもほとんどなく周りに迷惑が掛かっていない状況であれば、「契約不適合責任」が問われないこともあります。それぞれのケースで状況が変わりますので、弁護士などの専門家に相談したほうがいいでしょう。
なお、契約前にきちんと説明・合意し、その内容をきちんと書面に残すことによって防げるトラブルもあります。次項からは、売主・貸主側が契約前に果たすべき説明義務・告知義務・調査義務についてご説明します。
説明義務とは?
宅地建物取引業者は、宅建業法35条に規定された重要事項説明義務を負っています。
<宅建業法35条>
(重要事項の説明等)
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
宅地建物取引業法35条には上記のように規定されています。宅地建物取引業者が行う売買や賃貸では、購入者や賃借人に対し、契約が成立する前に説明を行う義務があります。宅地建物取引士が、必要事項を記載した書面を交付して口頭で説明しなければならないということです。
書面に記載する事項
主な記載事項は以下の通りです。
- 該当の宅地や建物が登記されている権利の種類、内容、登記名義人の氏名
- 都市計画法や建築基準法などの法令に基づく制限
- 賃貸契約以外であれば、私道に関する負担について
- 電気・ガス・上下水道のための設備の整備状況
- 契約時に建設中・造成中であれば、完了時の形状や構造について
- 集合住宅の場合は、管理費、建物の利用範囲などについて
この他にも、法令に定められたすべての事項について書面に記載し、説明しなければなりません。すべての事項について説明をし、買主や賃借人の合意が取れてから契約を結びます。
告知義務とは
人が自殺した・殺人事件が起きたなどの場合は告知義務があります。宅地建物取引業者がその事実を知っていたにもかかわらず、買主・借主に告知していないと、説明義務違反になります。
ただし、自然死の場合は除きます。該当物件や土地で「老衰で亡くなった」「自宅で倒れて亡くなった」など自然に迎える死が起こっても、告知する義務はありません。これは、自殺や他殺は誰かが意図的に起こしたことですが、自然死は予想できることではないからです。誰でも必ずその時が訪れるので、人が住む以上、想定内の出来事であるとされます。なお、近年増えている孤独死も状況によっては部屋の汚損が激しいこともありますが、事件性がなければ告知する義務はないのです。
余談ですが、賃貸物件での自然死の場合、告知義務はないものの汚損が酷いとその清掃に多大な費用が掛かり、大家さんの負担となります。しかしながら、原状回復費は相続人に請求できますので、大家さんは交渉してみる価値はあるでしょう。
伝えないと告知義務違反となる可能性あり
告知が必要となる判断基準は、「一般人において、買主や賃借人の立場に置かれた場合、居住の用に供するにあたって嫌悪感を抱くことに合理性があるかどうか」がポイントです。長い年月が経っていればその義務はなくなりますが、その出来事が起きてから1~2年しか経っていないのであれば、告知義務はあると思った方がいいでしょう。
それ以上の時間が経っている場合でも、入居者や購入者が後から知ってトラブルになる可能性を防ぐために、伝えておいた方がいいケースもあるかもしれません。起こった事柄によって変わりますので、専門家に相談しておくと安心です。
自殺は人が嫌悪感を抱く典型的な例です。過去には、自殺があった事実を伝えずに賃貸借契約を行い、「自殺事故後3年間は賃貸人に対して賃料全額を請求して賃貸することはできない」という判例が出ています。
賃貸物件なら「次に入居した人へ伝えればいい」と認識している大家さんも多いのですが、それを狙って「知人に協力をお願いして数ヵ月だけ借りたことにしてもらう」というようなことは認められません。直後の入居者の入居期間が2年未満であれば、さらにその次の入居者にも告知義務があると思っておいた方がいいでしょう。
調査義務とは?
調査義務は、物件や土地の仲介業者が負うものです。仲介するうえで、疑問に思ったり不審に感じたりしたら、その点についてきちんと調査をしなければなりません。
売主が意図的に隠していて、仲介業者がまったく知らなかった状況であれば責任は問われませんが、それを証明するのは難しい場合が多いでしょう。
仲介する業者さんは少しの違和感も見逃さないために、契約前に確認を怠らないようご注意ください。
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