【地積規模の大きな宅地とは】「貸家建付地」「小規模宅地」は併用できる?
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相続が発生したら、相続税を支払う必要があるかを判断するため、まず遺産の総額を計算します。土地をお持ちの場合は、その土地がいくらになるかを調べますが、これを「相続税評価額(たんに「評価額」とも)」といいます。相続税評価額が低くなるほど、相続人が支払う税金は少なくなるという仕組みです。
土地の相続税評価額は面積が広くなるほど高額になるので、広い土地をお持ちであれば、相続をみすえた対策を考えておくべきです。土地の評価額を引き下げる方法はいくつかありますが、広い土地で利用を検討したいのが「地積規模の大きな宅地の評価」です。
そこで今回は、「地積規模の大きな宅地の評価」でどの程度、評価額が引き下げられるのか、また、制度を利用する際に知っておくべきポイントをわかりやすくご紹介します。
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目次
「地積規模の大きな宅地の評価」とはどんなもの?
「地積規模の大きな宅地の評価」とは、面積にみあうほどの価格では売れないと思われる「広い土地」の相続税評価額を低くしてあげよう、という制度です。
広い土地は、思うような値段がつかないことが多い
広い土地は、その広さゆえに使い勝手が悪く、売却時にはかえって値段が安くなってしまうことがあります。詳しい理由は、以下の記事で解説しています。
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相続税の計算をする時だけ高い評価額がつくのでは、広い土地の持ち主がかわいそうです。そこで設けられたのが、「地積規模の大きな宅地の評価」です。
なお、「地積規模の大きな宅地の評価」は平成30年に新設されたもので、それ以前は「広大地評価」という制度でした。平成29年までに発生した相続について相続税の見直し請求を行う際は、「広大地評価」を用います。両制度の違いは、以下の記事をご参照ください。
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「地積規模の大きな宅地の評価」を利用できるのはどんな土地?
「地積規模の大きな宅地の評価」を利用できるのは、国の定める三大都市圏であれば500㎡以上、それ以外の地域は1000㎡以上の広さの土地です。
面積の他にも地区区分や容積率などに決まりがあります。詳しい条件や、三大都市圏に含まれる地域は国税庁のチェックシートをご参照ください。制度を利用できるかを簡単に確認するには、以下のフローチャートも便利です。
【国税庁のウェブサイトを元に作成】
所有する土地の地区区分や指定容積率は、インターネットでも調べられますが、市町村の役場に問い合わせると確実な情報を教えてもらえます。
「地積規模の大きな宅地の評価」を利用すると、相続税評価額はどの程度引き下げられる?
「地積規模の大きな宅地の評価」を利用すると、最大で4割程度、土地の評価額を引き下げられます。
土地の評価額は、路線価の設定されている地域では、次のように計算します。
「地積規模の大きな宅地の評価」を適用すると、ここに、規模格差補正率という係数をかけ算できます。
規模格差補正率は、計算式にしたがって求め、土地ごとに異なります。よほど広大な土地でなければ0.64〜0.8程度になるのが一般的です。例えば、規模格差補正率が0.75なら、土地の評価額は25%ダウンということ。土地の面積が大きくなるほど規模格差補正率は小さくなり、割引率もアップしていきます。
規模格差補正率の求め方や、倍率地域にある土地の評価方法は国税庁のウェブサイトをご参照ください。最終的な評価額を算出するには「奥行価格補正率」や「不整形地補正率」なども考慮する必要があるので、税理士などに相談した方が良いでしょう。
「地積規模の大きな宅地の評価」の利用を検討する時に知っておきたいこと
「地積規模の大きな宅地の評価」はまだ新しい制度であるため、一般にはあまり知られていない運用上のルールもあります。
要件を満たせば「地積規模の大きな宅地の評価」はマンション一室にも適用できる
「2LDKのマンション1室を相続した」というようなケースでも、「地積規模の大きな宅地の評価」を適用できることがあります。
「地積規模の大きな宅地の評価」を利用するには、「土地の面積が500㎡(三大都市圏以外は1,000㎡)以上」という条件がありました。実は、マンションの一室を相続する場合、マンションの「敷地全体」の面積が500㎡ないし1,000㎡あれば、制度が利用できるのです。
マンションは「容積率」がネックになりがち
ただし、面積以外の要件もすべて満たしていないと「地積規模の大きな宅地の評価」は適用できません。マンションで特に注意したいのは容積率です。面積の条件をクリアできそうなマンションは、容積率の条件を満たさないことも多いのです。
容積率とは、「敷地の面積における建物の総床面積の割合」で、マンションの床面積が増えるほど、容積率もアップします。中・高層マンションが建設できる土地は、容積率の高い土地です。「地積規模の大きな宅地の評価」を適用するには、指定容積率が400%(東京23区は300%)未満の必要があるので、中・高層マンションでは、制度の適用外になる可能性が高いのです。
低層マンションの1室を相続する際では、制度が利用できるかもしれないので、検討してみると良いでしょう。
複数の土地を一体として使用しているなら、面積を合計して「地積規模の大きな宅地」を適用することも可能
「地積規模の大きな宅地」が適用できるかの分かれ目となるのは、土地の面積です。「500㎡ないし1,000㎡以上」という面積についてのルールは、必ずしも1筆(※)の土地でこの要件を満たさなければならないわけではありません。複数の筆の土地でも、1つの土地として使用していれば、すべての面積を合計したうえで制度を適用することが可能です。
※「筆(ふで・ひつ)」は、登記簿上での土地1区画の単位のこと。「1筆の土地」とは、登記簿上で1つの土地、という意味。
例えば、隣り合う3筆の土地の上に家を建てて住んでいたら、3筆の土地を一体として使用していることになります。したがって、「面積が500㎡ないし1,000㎡以上か」の判定は、3つの土地の面積の合計で行ってOKなのです。
これは、国税庁の出している「宅地は利用されている単位ごとに評価すること」という通達が根拠になっています。(参考:土地の評価上の区分7−2)
なお、「利用の単位ごとの評価」の例外が、次でご説明する「土地を分割して相続する場合」です。
土地を分割して相続すると「地積規模の大きな宅地」を適用できなくなることも
土地を相続する方法によって、「地積規模の大きな宅地の評価」を利用できるか、できないかが変わる可能性があります。
土地を分割して相続する場合は、それぞれの土地ごとに面積が500㎡ないし1,000㎡以上でないと、「地積規模の大きな宅地の評価」は適用できません(※)。たとえ、分けた後の土地を一体として使用していても、です。
これに対して、土地を共有状態で相続した場合は、土地全体の面積で500㎡ないし1,000㎡を超えていれば制度が利用できます。
具体的に、三大都市圏にある600㎡の宅地を兄弟2人で相続する例で考えてみましょう。
この土地を2人で分割して300㎡ずつ相続すると、それぞれの面積は500㎡未満になるので「地積規模の大きな宅地の評価」は利用できません。しかし、2人の共有で相続するなら制度が適用できるのです。(面積だけでなく、地区区分や容積率などの条件もすべて満たしているとします。)
なお、「地積規模の大きな宅地の評価」を適用するためだけに共有状態で相続し、その直後に、売買のために土地を分割すると、制度の適用が認められないおそれもあります。また、相続人が不仲であれば、土地を共有状態にしてしまうと後々のトラブルにつながりかねません。円満な相続を実現するには、総合的な判断が求められます。
では、次項からは「地積規模の大きな宅地の評価」は「貸家建付地の評価」「小規模宅地の特例」との併用が可能かを見ていきます。
「地積規模の大きな宅地の評価」と「貸家建付地」は併用できるのか
貸家建付地とは、アパートやマンション、戸建てを建設し、それを他人に貸し出している土地のこと。「貸家建付地」にすることで土地の評価額を下げるのは、地主さんの相続税対策としてもっともポピュラーな手段の1つです。
貸家建付地の節税効果
貸家建付地は、人に貸して住まわせているため、言い換えれば、自分で100%自由には使えない土地です。したがって、相続税評価額も自分で使っている土地(自用地)に比べると安くなります。詳しくはこちらの記事でもご紹介していますが、貸家建付地にすると自用地よりも約20%評価額が安くなるのです。
「貸家建付地」に対して「地積規模の大きな宅地の評価」を適用することは可能
貸家建付地であっても、「地積規模の大きな宅地の評価」の条件を満たしていれば、両者を併用できます。考えられるのは、以下のようなケースです。
- 広い土地に建っている「一軒家」を賃貸に出している
- 「長屋」スタイルのアパートを所持している
- マンションの一室を賃貸に出している(※)
(※)広い土地に建つ賃貸物件といえば、真っ先に思い浮かぶ「マンション」ですが、適用には注意が必要です。「要件を満たせば、地積規模の大きな宅地の評価はマンション一室にも適用できる」でご説明した通り、マンションが建てられる土地は、容積率が条件を満たさない可能性も。適用には慎重な判断が必要です。
貸家建付地にするかどうかは十分な検討を
貸家建付地にすると、税額面での優遇が受けられますし、「地積規模の大きな宅地の評価」を併用すればさらに減額が大きくなりお得です。しかし、貸家建付地にするということは、賃貸経営を行なっていくということなので、相応のリスクも負います。貸家建付地を検討するなら、綿密なシュミレーションを行いましょう。
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「地積規模の大きな宅地の評価」と「小規模宅地等の特例」は併用できるのか
まず、「小規模宅地等の特例」の内容から確認しましょう。
適用できれば相続税額が80%減!小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、その土地の評価額を最大で80%減額できるというもので、不動産の相続に関する特例の中でも特に節税効果の大きいものです。制度を利用するための条件は、以下の記事をご参照ください。
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「地積規模の大きな宅地の評価」と、「小規模宅地等の特例」は併用可能
同じ土地に対して、「地積規模の大きな宅地の評価」と、「小規模宅地等の特例」の両方を適用することは可能(※)です。「地積の大きな宅地」に対して「小規模宅地等の特例」を利用するのは違和感があるかもしれませんが、それぞれの要件を満たしていれば問題ありません。
※両制度を利用することで、割引かれる税額がかなり大きくなります。そのため、今後の法改正などで両制度の併用が規制される、または、併用への条件が厳しくなるなどの可能性も考えられます。最新の動向にもご注意ください。
処分の難しい広い土地は、相続にむけて計画的な行動を
相続税を支払う際は、基本的に現金で納めなければなりません。評価額の高い土地がある場合、十分な現金がなければ、遺産を相続する人は、納税資金の工面に苦労する可能性があります。広い土地の相続では、相続税評価額を引き下げるための対策をしておくと、相続する家族からも感謝されることでしょう。
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