みなし贈与・うっかり贈与にご注意

娘や息子が新居を建てるとなれば、お祝いの気持ちから援助をしたくなるもの。また、親や兄弟がお金に困っていたら助けてあげたいと思う方も多いでしょう。
しかし、不用意に資金援助をすると、贈与とみなされて多額の贈与税が課される可能性があります。
「就職祝いとして車をプレゼントする」「一人暮らしを始めた娘に家具や家電製品を買い与える」場合もその年の贈与額の合計が110万円を超えると贈与税の対象となりますので注意しなければなりません。

贈与税の支払い義務があるのは、受け取った人。援助のつもりでモノをあげたのに、現金で贈与税の支払いを課されると困らせてしまう可能性があります。

今回は、本来の贈与ではないが課税対象となる「みなし贈与」と、贈与税がかかると思わずに贈与してしまう「うっかり贈与」について説明します。
車の贈与

みなし贈与ってなに?

みなし贈与とは、民法の定める「贈与」ではないが、その性質上、贈与とみなされるものです。なぜ贈与とみなされるのかというと、そうしないと抜け道として意図的に相続財産を減らされ、国に入る税金が少なくなる可能性があるからです。

「親が支払い済みの保険の名義を子に移し、子どもが受け取れるようにする」「親の不動産を相場より大幅に安く子に譲る」などがこれにあたります。

親の財産をかなりの低額で子に売却する

親の不動産を子どもに譲りたいと思ったときに、他人に売るのと同じ額で売ろうとは思わない方が大半です。タダであげるとは行かなくとも、相場からみて半額以下の価格で親が子に売却しようと思うこともあるでしょう。
民法では「贈与」の条件を無償としています。安いとはいえ、有償での売却ですから本来であれば「贈与」とはなりません。

しかし、それを贈与でないとしてしまうと、「親の財産を減らし相続税を減らす」ための抜け道として使う人が出てきます。
そこでこのケースのような低額譲渡を贈与とみなして、時価との差額に贈与税を課税するのです。

親から借りた金の債務を免除してもらう

マイホーム購入の際、親から1,000万円を借り、当初は返済するつもりがあったとしても「だんだんと支払いが滞るようになり、最終的にここ数年、支払いをしていない」という話も耳にします。
親としても、「あげるつもりで貸したのだし、近い将来、子が相続することになるのだから取り立てるのも…」とあげたことにしてもいいという気持ちにもなります。
このような経緯で「債務免除」してもらった場合、民法上の贈与の範疇には入りませんが、上のケースと同じく、みなし贈与とされ課税対象です。

預金や保険金の受取人名義を子に移す

親が自身を受取人として入った保険や、積み立てた預金の名義を子に移すと、これもみなし贈与とされます。
このように実質的かつ常識的に考えて贈与と思われるものの、民法の定義する厳密な贈与には含まれないものが「みなし贈与」となるわけです。

贈与とみなされない親子間のお金のやり取りに注意

逆に贈与したつもりだったのに、税務署から「贈与がなされていない」と否認されてしまうケースも少なくありません。それは、民法上の贈与から外れてしまっているからです。
暦年贈与のつもりで、親が子ども名義でコツコツ貯金していたのに、相続が発生するまでその存在を子が知らないということもあるでしょう。税務調査で子が「こんな銀行の預金、私は知らない」と答えると、相続税の課税対象にされてしまいます。

贈与調査

夫から渡された生活費の一部を「へそくり」妻名義の預金に

見逃しがちなのが、「夫から生活費として渡されたお金をやりくりして、余った分を妻名義の預金に入れていた」ケースです。ひと月の金額はわずかでもそれが数十年と続くとかなりの大金になっている場合があります。
夫が亡くなった後に、「これは誰のお金ですか?」と税務署に聞かれたら、妻は「自分のお金だ」と答えるでしょう。
しかし、このお金は内緒で行われた「へそくり」であり、夫婦間での贈与の意思表示はなされていません。贈与であったと証明できなければ、この預金は夫の金だとされて、相続財産の一部となるため、相続税の課税対象になってしまうのです。
これを回避するためには、「今月の生活費をやりくりして余ったお金を私がもらってもいいか」と夫に確認し、「いいよ」と合意してもらう必要があります。そして、贈与契約書を作成するまでとは言いませんが、後日の税務調査に備えて、「合意した」という事実を何らかの形で残しておいたほうが良いでしょう。

例えば、へそくり用の妻名義の口座を開設し、その通帳の冒頭に「生活費余剰資金は妻に贈与する」と夫が記します。その後の入金ごとに夫がボールペンで「OK・了」などと通帳の入金額の頭に記載します。このようにすることで、「妻の口座に生活費の余りを入金することを夫が許可している」と証明されます。

子に内緒で貯めた金は親のお金

典型的なのは、親が子に内緒で子ども名義の通帳に金を貯めているケースです。そのことが税務調査で発覚した場合、成人の子どもが認識していない貯金については、親のものであり「贈与はされていない」とみなされます。民法では、「贈与」の条件として、当事者双方の意思の一致を求めます。この場合では「意思」が欠落しているので、贈与とは認められないのです。その発覚が相続時だと、子ども名義の通帳に入っていても、それは親のお金だと判断され、相続税の計算に入れられます。

通帳を作るなら子供にサインさせる

親から未成年の子への贈与の場合はこの限りではありませんが、後のトラブルを防ぐため、貯金について理解できる年齢になったらその存在については知らせておくと良いでしょう。
これから新規で子ども名義の通帳を作るなら、作成時の署名は子どもに書かせ、銀行印も子ども専用のものを用意します。そして作った通帳は子どもに渡し、安全な場所で管理させます。

赤ちゃんへの贈与はどうやってするの?

贈与はあげた人、もらった人の合意が必要です。あげた人が「あげますよ」、もらった人が「はい、もらいます」と言ってはじめて、贈与とされるのです。
では、「はい、もらいます」と意思を示せない赤ちゃんや幼い子どもへの贈与はできないのでしょうか。もちろんそんなわけはなく、幼い子どもへの贈与はもちろん可能です。自分で意思を示せない年齢なら、親がその代わりを務めます。
例えば、おじいちゃんから孫へ贈与があったとすると、孫の代わりに、その両親が「はい、もらいます」と示せばいいのです。当然、孫のお父さんお母さんも知らないお金だった場合は、贈与とはなりません。

うっかり贈与にご注意

「贈与税のことなどまったく頭になく、高額のプレゼントをもらったら、それが贈与とされて贈与税が課されてしまったがどうしたらいいか」と相談を受けることがあります。
贈与税はもらう側に支払い義務があるので、現金を持っていないと税金を支払うことができない可能性があります。贈与税の支払いのために、そのプレゼントを現金化するようなことになれば、あげた方も残念な気持ちになります。

うっかり贈与

税務署はどうやって申告漏れを把握するの?

いくら税務署といえど、高価なネックレスがプレゼントされたからといって瞬時に把握することはできません。本来、申告義務があるとしても、個人間のプレゼントがあった事実を知るのは難しいのです。
ではどのようなタイミングで発覚するのでしょうか。それは主に二つあります。

1.相続に関する税務調査で発覚

相続税の税務調査は、相続税の申告漏れや間違いがないかを確認するために行われます。
平成29年度の被相続人数は11万人ほど。そのうち、1万2千件ほど税務調査が入っています。10%以上の割合で税務調査が入り、そのうち83.7%が申告漏れ等を指摘されます。
その一連の調査で税務署がお金の動きをチェックします。高額な宝石の購入履歴や大金を通帳から引き出した形跡など、「どこに流れたものなのか」確認され、もらった側にまで調査が及ぶのです。

2.不動産や車など、登記・登録される資産によって発覚

税務署は常日頃から、お金の動きに目を光らせています。特に不動産や車など、その取得に際して登記や登録が必要なものは、みつけやすいのです。
よく問題になるのは、住宅を購入するときに親が出した数千万円の資金を「親から借りた」と弁明するケースです。
そのようにいうと「どのように返済する予定なのか」と税務署は尋ねます。そこで、「これから30年間で毎月10万円ずつ返済する予定だ。利息はゼロとすることで合意している」などと説明することになるでしょう。事前に借入契約書(金銭消費貸借契約書)を交わしていればその言い分がいったん通る可能性もあります。

それは「年収や年齢などから考えて無理のない返済計画である」と認められた場合です。とはいえ、数年後にきちんとその通りに返済がなされているか調査が入る可能性があるので油断は禁物です。
その時点で「贈与」とみなされると、延滞金を含め、多額の税金が課されます。

返済計画に無理があれば否認される

また、息子の年収が200万円程度しかない場合は「30年間で毎月10万円ずつ返済」という言い分は通りません。なぜなら、どう考えてもこの返済計画は現実的ではないからです。そうなると、「贈与」として課税されることになります。「出世払い」と弁明しても、税務署は否認します。

なお、指摘を受けてから「110万円の贈与と返済金額を相殺した」という説明をしても受け入れられません。ただし、その返済とは全く別のタイミングで毎年贈与を行い、結果としてそのお金が返済に回っている、というのであれば、否認はできないと考えられます。とはいえ、税務調査で指摘されてからでは手遅れなので、開始時に対策を取りましょう。

ちなみに合意さえしていれば「利息ゼロ」でも問題はありません。万が一指摘されても、贈与には110万円の基礎控除があります。利息がその範囲内に収まっていれば大丈夫です。
そしてゼロ金利時代の現在、相場の利息で計算しても基礎控除額を超えることはそうないと思われます。

どのように指摘されるの?

では税務署からの指摘はどのような形で受けるのでしょうか。
税務署は登記簿を常に注視しています。これで不動産の売買等の移動を知るのです。そこで通常は「この購入費はどこから調達しましたか?」と尋ねる文書が送られてきたり、電話や手紙で税務署に呼び出されたりします。そして税務署から申告の漏れや計算ミスを指摘、贈与の有無を追及されます。

贈与であったとみなされた場合、贈与税を支払うのはもらった側です。それが現金で、まだ残っていればいいのですが、不動産や車であれば、納税資金の工面に非常に苦労するかもしれません。最悪、手離さなければならない事態に陥ります。

「扶養」するための費用は贈与税が不要

結婚式

「親が子に贈与するとすべて贈与税が課されるか」というとそうでもありません。親が子を扶養するための資金は課税対象ではないのです。代表的なものとして学資金です。
問題は「扶養」としての資金供与の範囲がどこまでで、どの金額までなのか、ということです。
例えば、新婚旅行代として500万円をあげたらそれは贈与になりますが、親が子の結婚式費用として500万円出してあげるのは、まず贈与にはならないと思われるので、贈与税は支払わなくてよいのです。
ただし、その「結婚式費用」が1,000万円を超えてくると「贈与ではないか?」と疑われるかもしれません。一般的な規模の結婚式に1,000万円以上かかるとは思えないからです。これは常識に基づいて判断することになります。

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