「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

世界進出するグローバル企業の増加に伴い、海外への転居、永住する方も増えています。とはいえ、ご自身の転居先にご両親も伴っていく方は多くありません。
日本と海外に別れて暮らしていて相続が発生すると、国内居住の場合に比べ処理に時間がかかります。
被相続人(故人)が日本在住で、相続人の一人が海外居住者だった場合、「印鑑証明書が発行されないこと」で相続手続きが足止めされるケースが多いようです。
通常、相続手続きに必要な署名・捺印をした際に、それが本物であることを証明するために印鑑証明書の提出を求められます。しかし、印鑑証明書は日本に住所がなければ発行できず、居住地が海外であると発行できないので不都合が生じるのです。

今回は、海外居住者が相続人の中にいた場合、どのように手続きすればいいのか、ご説明します。

「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

相続手続きには印鑑証明書が必須 海外居住者はサイン証明を発行してもらわなければならない

相続発生に際して何より重要なことは、多岐にわたる遺産について誰が何を相続するのかを相続人の間で腹を割って話し合い、これを円満にまとめることです。もちろん海外居住者であってもやるべきことは同じです。
とはいえ、相続人がみな日本に居住している場合に比べると、処理に時間がかかることもあります。以下でご説明しますが、サイン証明(署名証明)が必要であることは心に留めておきましょう。

相続手続きには、なんで印鑑証明やサイン証明が必要なの?

相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議をします。どのように分けるかが決まったら遺産分割協議書を作成し、相続人全員がそこに署名捺印します。
遺産分割協議書への署名はもちろん本人の手によるものでなければなりません。遠方に住んでいる相続人にわざわざ記載してもらうのは手間ですが、相続人本人に書いてもらわなければ後日のトラブルの元となります。
そのため、本人である証拠としてそこには実印を捺します。その実印が本物であるという証拠に印鑑証明書を添付するのです。
またそれに基づき不動産の登記名義を変更する相続登記等においては、登記名義人が実在することを証するために、登記所に住民票の提出が必要となります。

印鑑証明書の代わりにサイン証明を提出する

こうした実印や住民票は日本国内の独自の仕組みで、海外にはありません。そこで海外に居住する日本人のために、これらの書類に代わるサイン証明が必要となるわけです。
相続人のうちに海外居住者が含まれていても、相続手続きに関して本質的には何の変わりもありません。手続き書類の実印・印鑑証明書や住民票が、海外ではサイン証明(署名証明)に変わるだけです。
通常は遺産分割協議が整ったら、遺産分割協議書にその内容を記載して相続人全員が署名、実印を捺し、印鑑証明書を添付します。
実印とするには印鑑登録が必要ですが、住所地の役所で行うため、日本に住所がないと印鑑登録ができず、海外居住者は印鑑証明書を発行することができません。
そのため海外居住者は、それに相当するものとして、サイン証明を添付することになります。またサイン証明は、金融機関での預金等の名義変更手続きや相続登記手続きにも必要となります。

印鑑証明書の代わりになるサイン証明書ってなに?

「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

サイン証明とは、国内に住民票を持たない海外居住者向けに、印鑑証明書の代わりとして在外公館が発行するものです。サイン証明は、大使館等の在外公館に出向き領事の面前でサインを行うことにより発行されます。これにより本人のサインであることを証明するわけです。

サイン証明は2種類 用途に応じて必要な種類が変わる

サイン証明には単独タイプと綴り合せタイプの2種類があります。一通につき1700円相当を現地通貨で支払います。

単独タイプ

申請者の署名を単独で証明するものです。

綴り合せタイプ

在外公館が発行する証明書と、申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うものです。例えば、相続で使う場合は、完成された遺産分割協議書原本を持参し、在外公館が発行した証明書と綴り合せて割り印を行い、発行されます。

上述の通り、綴り合せタイプは単独タイプに比べ、用意するのに手間がかかります。
相続手続きで使う場合は単独タイプで受理されることが多いのですが、抵当権設定登記等については綴り合わせタイプが必要とされています。どちらの方法を要求されるかは提出先により違うので、事前に確認してください。

サイン証明は、在外公館でないと発行できないので、帰国前に準備しなければなりません。
また、単独タイプを取得するなら複数機関で使用する可能性も考え何通か取っておくと安心です。

ただ提出先によって有効期限が設けられていることもあるのでご注意ください。短いところで3ヵ月、半年ほどのところもあるようです。不動産登記については有効期限はありません。

相続人に日本国籍がない人がいるならすぐに在外大使館に相談を

海外居住でも日本国籍があれば、サイン証明などの発行も比較的スムーズです。しかし、国際結婚や帰化により日本の国籍を除籍し、海外の国籍のみ保有している場合は簡単にはいきません。
被相続人が日本人であるなら、その相続には日本法が適用されます。相続人が外国籍であっても相続権がなくなることはないので、遺産分割協議書への署名捺印が求められます。

しかし、基本的に在外公館で証明書を発行してもらえるのは日本国籍がある場合のみです。とはいえ、相続手続きにはなくてはならない書類なので、事情を説明し、失効した日本国旅券や戸籍謄本などを提示すれば発行してもらえることもあります。相続税の支払い期限は10ヵ月。やりとりに時間がかかることを考え、早い段階で相談しましょう。

海外居住中に相続発生。帰国しないと処理できないの?

「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

相続手続きには「遺産分割の話し合い」「遺産分割協議書の作成」「金融資産の名義変更手続き」「不動産の名義変更のための相続登記申請」などがあります。さらに課税対象となる額の資産があると「相続税の申告と納付」が追加されます。

このうち最も大切なのは遺産分割の話し合いです。「遺言が存在する」「既に分割方針が決まっている」というようなことがなければ、この話し合いはやはり帰国の上で面と向かって話し合った方がいいように思います。

その後の手続きに関しては、書類の郵送により各相続人の間を回し、処理することは可能といえます。
ただし相続登記を司法書士に依頼する場合には、本人確認のための面談を要請されるので、帰国を余儀なくされます。

仕事で海外に居住している場合、長期の休みを取ったり、頻繁に帰国したりすることが叶わない場合も多いものです。
相続登記は司法書士を通さなくともできなくはありません。もし帰国が困難であれば、時間はかかるもののご自身で勉強されて済ませるのも選択肢の一つでしょう。

そろそろ相続も近いだろうと思われている方は、それに備え、海外渡航前や帰省時に、いざというときに困らないように対策をしておくことをおすすめします。

どうやって納税したらいいの?

相続人が海外に居住していても相続税の支払い義務はある

相続税の申告は、被相続人(故人)の住所地を所管する税務署に対して行います。納税先もその税務署です。つまり各相続人の住民票がどこにあろうと、それが海外であっても関係ありません。

納税の方法は、まず所轄税務署から納付書の用紙を取り寄せ、これに納税者の住所(海外可)・氏名と税額を記入します。そしてそれを銀行に持ち込んで預金から振り替えて払います。要するに、固定資産税の納付書に基づき銀行で納税するのと同じ要領です。事前に登録を済ませているのなら電子納税もできます。
電子納税に関してはこちらをご参照ください。

相続税の電子申告、2019年10月から開始予定!e-Taxってなに?

海外居住者が日本の不動産により継続的収入があるなら納税管理人を選任

「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

海外に居住しているものの、国内に「賃貸マンション・アパートを所有」「駐車場経営をしている」など、日本にある不動産により、継続的な収入がある方もいらっしゃいます。その国内の所得を申告・納税するのはかなりの手間がかかります。
そこで、その人の代わりに毎年の所得を申告・納税する人が必要となります。この役割を果たすのが納税管理人です。
この納税管理人の選任は、ネットでも入手可能な所定の用紙に必要事項を記載し、税務署に通知するだけで完了します。それ以降、税務署は、すべての手続きに対して納税管理人を介し行うことになります。
なお相続税の納付といった一回限りの納税であれば、納税管理人は不要でしょう。

海外居住中に、日本にある不動産を処分したい。どうしたらいい?

「相続人の一人が海外居住者だった」どうすればいい?

不動産の売却に関しては、売主が国内にいるのと海外にいるとでは本質的な差異はありません。重要なのは「信頼できる不動産事業者を見つけ、そこと密な連絡を取りつつそこに任せ、最終的に納得のいく条件で売却する」という点でしょう。
このうちもっとも難しいのは、いうまでもなく「信頼できる不動産事業者をどうやって見つけるか」です。大手だから大丈夫というものではありません。かといって、いかにネットに情報があふれているとはいえ「中小・零細では不安」というのもよく分かります。
となるとやはり信頼の置ける誰かに「いい人を紹介してもらう」というのが良い方法であるように思います。
ご自身で探す場合も同じですが、不動産業者の担当者と売却方法や相場観についてじっくり話をしてみて、信頼できそうか・ウマが合いそうかを判断するのが一番でしょう。

ただ海外居住者の場合には、こうした作業は長期の帰国がかなわないと難しいものです。そうなると、信頼できる人に「事業者の選定を含め全てを任せる」しかないように思います。。
しかし海外にいても、メールやネットの発達により意思疎通にはさしたる支障はなくなってきています。信頼できる不動産事業者さえ見つけることができれば、海外居住者であることのデメリットはそう大きくはないように思います。
業者を確定する前に、ご自身が海外在住で、たびたびの面会が難しいことは伝えておきましょう。

帰国しての契約が難しい場合、業者による代行が可能です。しかし、購入者に帰国ができない事情をしっかりと説明して、納得してもらわなければなりません。契約段階では購入者が一方的に手付金を払うなど不利な立場にいるため、信頼関係を築くことが大切です。

帰国する時間的な余裕がないなら専門家に相談を

相続が発生すると直後からやることが山積みです。相続人全員が日本国内にいても、何かと時間がかかる手続きが多いのに、海外居住者が相続人の中にいたり、ご自身が海外に居住していたりすると、余計に処理が大変になります。
事務処理のために仕事を休み、渡航費もかけて帰国するよりは、専門家に任せる方がいい場合もあります。
海外在住者がいるなら、相続が起こる前に、いざというときにどういう手順でことを進めればいいのか、必ず確認しておくことが大切です。

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